不当な長時間労働に追い込まれる
労働基準法第41条2項にある「監督又は管理の地位にある者は、通常の残業に対する割増賃金の規定と、休日労働に関する割増賃金の規定は、適用しない」という規定により、管理監督者に該当する人は、時間外労働に対する割増賃金の規定が適用されないことになっています。これは、管理職に労働時間の制約があることで、業務に支障をきたさないようにするためにある法律ですが、そこに目をつけた企業が法律の隙をついて悪用するという事案が実際にあります。一般社員に対して残業代のつかない管理職の肩書きを与え、少しの管理職手当を支払って長時間労働させるという「名ばかり管理職」は、労働者の過労死が多発するなど一時期大きな社会問題にもなり、ブラック企業と診断される要因のひとつとして有名になりました。
労働基準法では、週40時間を超える労働には割増賃金を支払わなければならないことになっており、深夜の労働には通常の割増賃金以上の賃金の支払いも必要になります。また、原則として週に1日の休日を設けなければなりませんが、もしやむを得ず休日に労働させる場合には、さらなる割増賃金を支払わなければなりません。このように、時間外労働をすればするほど人件費が多くかかる仕組みがあることによって、人件費を抑えたい企業側を既存の労働者の長時間労働ではなく新たな人材を増やす方へと動かす効果が期待できます。
しかし、管理職になると管理職手当は支払われますが、労働時間に関する規定の範囲外になるので、労働時間がどれだけ長くても違法という扱いにはなりませんし、残業代ももちろんありません。ブラック企業はこれを抜け道にして、一般社員を名ばかりの管理職に据え、わずかな管理職手当のみで堂々と長時間労働を課しているのです。管理職という立場ゆえに違法とはなりませんが、その現状は悪質そのもので、ブラック企業ばかりが得をして労働者は命に関わるような事態にまで追い込まれてしまうこともあります。
管理監督者の定義が曖昧だったことから、それを悪用して名ばかり管理職を据えるケースが続出し、100時間を超える長時間労働が強制的に行われた結果、自殺にまで追い込まれた人までいるなど、深刻な問題として取り上げられるようになりました。その結果、労働基準法第42条2項に「管理監督者に関する定義」が加えられることになりました。それによると、管理監督者は、労働時間、休憩、休日の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容と権限を有し、それにふさわしい待遇がなされていることとされており、名ばかり管理職問題の是正につながっています。